俳句の作り方  万緑ばんりょく の俳句

     万緑やわが掌に釘の痕もなし  山口誓子やまぐちせいし

    ばんりょくや わがてにくぎの あともなし

 

 

     万緑が夏の季語。

    「木々の緑が深まり、生命力に溢れる様子。

    王安石の『万緑叢中紅一点』に基づく。

    中村草田男が用い一般化した。

     万緑の中や吾子の歯生え初むる  中村草田男」

    (俳句歳時記 夏 角川書店編)

 

 

     句意を申し上げます。

    ああ、一面の緑。

    私のてのひらには釘の痕さえないのだ。

     万緑やわが掌に釘の痕もなし

 

 

     鑑賞してみましょう。

    ぬるい湯にながながとつかるように私の疎開が長引いた。

    肺の療養のためだ。

    おかげで戦火からまぬがれた。

    そのせいか何事も成さぬ掌は白くやわらかい。

    キリストが磔はりつけになった時の掌の釘の痕。

    そんなものはないのだ。

    戦火からまぬがれた安堵とともに一抹の後悔を覚える。

    否、正直に言ってしまおう。

    私は後悔以上の忸怩たる思いを抱いているのだ。

    白くて柔らかい掌を恥じている。

    何事も成さなかった白いそして柔らかな掌は恥なのだ。

    しかし、その恥はわたしを蝕んだりしない。

    快い疼痛なのだから・・・。

    痛みは生きていることの証だ。

    さあ、生命溢れるこの緑の中で命の証の掌をじっと見つめよう!

     万緑やわが掌に釘の痕もなし

 

 

     山口誓子について・・・。

    クリスチャンではありません。

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